
採用したばかりの社員が、入社直後から出社せず、ほどなく退職届が届く――こうした事態は実際に起きています。
厚生労働省の調査によると、新規大卒就職者の約3人に1人が3年以内に離職しており(令和4年3月卒の3年以内離職率:大卒33.8%)、早期離職は多くの企業にとって避けられないリスクです。
この記事では、入社直後に退職されたときの手続き上の注意点と、届出タイミングの実務的な工夫を解説します。
入社当日に全手続き完了 → 出社なく退職届が到着
実際にあった事例です。
新入社員が入社日の翌日から出社せず、翌週には退職届が会社に届いた。会社は入社当日に雇用保険や社会保険の取得手続きを終えており、すぐに喪失手続きの必要が生じた。
法令遵守の会社ほど、入社日当日に雇用保険・社会保険の届出を済ませるものです。しかし、すぐに辞められると、その迅速さが裏目に出ることがあります。
- 雇用保険の資格取得届 → すぐに資格喪失届を提出
- 社会保険の資格取得届 → すぐに資格喪失届を提出
- 1〜2日分の給与計算 → 雇用保険料・社会保険料の控除と精算
届出はいつまでに出せばいいか ― 法定期限の確認
入社日に即届け出ること自体は間違いではありません。しかし、法律上は一定の猶予期間が設けられています。
| 届出の種類 | 届出期限 | 届出先 |
|---|---|---|
| 雇用保険 資格取得届 | 翌月10日まで | ハローワーク |
| 社会保険 資格取得届 | 事実発生から5日以内 | 日本年金機構 事務センター |
雇用保険の資格取得届は翌月10日までが法定期限です(厚生労働省「事業主の行う雇用保険の手続き」)。入社初日に急いで届け出る必要はありません。
社会保険は5日以内ですが(日本年金機構「就職したときの手続き」)、こちらも入社当日に出さなければならないわけではありません。
各届出様式の詳細は、ハローワークインターネットサービスの帳票一覧や、日本年金機構の届出様式ページで確認できます。
実務のポイント:届出タイミングの工夫
入社直後の退職リスクに備えて、以下のような運用が考えられます。
雇用保険:数日〜1週間程度、様子を見てから届け出る
翌月10日が期限のため、入社から数日〜1週間ほど経過してから届け出る運用も実務上は現実的です。出勤状況が安定したことを確認してから届出を行うことで、「取得してすぐ喪失」の手戻りを避けられます。
社会保険:5日以内の期限内で、初日に出さない
法的には5日間の猶予があるため、2~3日目に届け出ることも可能です。
注意点
届出を遅らせること自体は法定期限内であれば問題ありませんが、社会保険については入社直後に病院受診を控えている場合など、早めの届出を希望している場合がありますので、注意してください。また、届出を遅らせたことにより、届出を忘れてしまい、未届けのまま放置してしまうことがあります。在籍している社員の届出は、確実に行ってください。
「入社前に見極められないか」― よくある相談と法的リスク
入社直後の退職を経験した企業からは、「入社前に適性を見極められないか」というご相談をよくいただきます。
内定取り消しは「解雇」と同じ扱い
採用内定は法的には「始期付解約権留保付労働契約」とされています(厚生労働省「確かめよう労働条件」採用の内定について)。
つまり、内定を出した時点で労働契約が成立しており、内定取り消しは実質的に解雇と同じです。「アルバイトで試してから、合わなければ内定を取り消す」といった運用は、法的リスクが非常に高いといえます。
内定取り消しが認められるのは、取り消し事由が採用内定当時知ることができなかった事実であり、かつ社会通念上相当と認められる場合に限られます(主要裁判例の解説)。
厚生労働省も新規学卒者の採用内定取消しへの対応として、ハローワークを通じた指導体制を整備しています。
インターンシップは一つの選択肢 ― ただし注意点あり
入社前のミスマッチを防ぐ方法として、インターンシップは有効な手段の一つです。令和4年6月に改正された三省合意(文部科学省・厚生労働省・経済産業省)により、一定の基準を満たすインターンシップで取得した学生情報は採用選考に活用できるようになりました(参考:令和5年度からの取扱い変更)。
ただし、実施にあたっては以下の点に注意が必要です。
| 内容 | 注意点 |
|---|---|
| 職場見学・お仕事体験のみ | 無給でも実施可能な場合がある |
| 実際に業務をさせる場合 | 最低賃金以上の支払いが必要 |
| 業務中の事故・ケガ | 労災保険の適用を考慮 |
中小企業では受け入れ体制の整備自体が負担になることもあり、企業規模に応じた判断が求められます。インターンシップの受け入れを検討される場合は、厚生労働省「若者の雇入れを検討している事業主の皆さまへ」もご参照ください。
試用期間の規定も確認を
入社直後の退職リスクに備えるもう一つの方法が、就業規則の試用期間の規定を適切に整備しておくことです。
試用期間中の解雇は通常の解雇より広い範囲で認められますが、それでも客観的に合理的な理由と社会的相当性が必要です(厚生労働省「試用期間に関する裁判例」)。
試用期間について就業規則に定めるべき主な項目は以下のとおりです。
- 試用期間の長さ(一般的には3〜6か月)
- 試用期間中の労働条件(賃金、休日等)
- 本採用拒否の基準と手続き
- 試用期間の延長条件
まとめ:入社時の届出で気をつけたい3つのポイント
| No. | ポイント | 詳細 |
|---|---|---|
| 1 | 雇用保険の届出は急がなくてよい | 法定期限は翌月10日。数日様子を見てからでも間に合う |
| 2 | 社会保険は5日以内だが初日でなくてよい | 2〜3日目の届出でも期限内 |
| 3 | 就業規則の試用期間規定を確認 | 早期離職リスクへの備えとして整備を |
手続きを迅速に行うこと自体は大切ですが、「出してすぐ取り消す」事態を避ける実務的な工夫も、人事・労務担当者には求められます。
入社・退社にまつわる手続きや就業規則の整備について、やえざき事務所ではスポット(単発)でもご相談をお受けしています。
「こういうとき、どうすればいいの?」と思ったら、お気軽にお問い合わせください。